T10 「この図形の重心はどこ?」 ― 三角形の重心

<練習問題>

今回の問題は全部で3問あります。(※35Fまでの知識が前提です!)

大きさのある物体は、その物体の重さを代表する点となる重心じゅうしん)をもっている。

例えば、重さが無視できる軽い棒の両端に20 gの重りと10 gの重りをつけると、重心となる点で系全体が重さの逆比(この場合は20gの重りの方から1 : 2)に内分されることが知られている。

重量比から重心の位置が決まる例

すなわち、系全体の重さは赤い点にのみかかっているとみなすことができ、その点を支えるだけで棒は倒れずに安定する。

(1) 図のように、重さが無視できる軽い棒(5 cm)の両端に6 gと8 gの重り(半径1 cmの球)をとりつけた。この物体の重心はどこにあるか求めなさい。

両端に重りをとりつけた棒

「重心」は平面図形においても定義することができる。

三角形において、各頂点から対辺の中点に向かって線を引く(これを中線という)。すると、これらは必ず1点で交わり、その交点は三角形の重心と呼ばれる(「重力」の英語Gravityの頭文字Gで表す)。

△ABCの重心Gを特定する様子

棒の場合と同じく、三角形の重さ(平面図形そのものに重さはないので、ここでは三角形のうすい板をイメージ)は重心にのみかかっているとみなすことができ、この点を支えれば三角形は倒れずに安定する。

重心Gを支えることで△ABCが安定している様子

(2) 三角形の各頂点から引いた中線が1点で交わることは、中線$\mathrm{AL}$, $\mathrm{BM}$の交点を$\mathrm{G}$、中線$\mathrm{AL}$, $\mathrm{CN}$の交点$\mathrm{G’}$とした時、この2点が同じであることを示せば証明できる。

中線AL, BMの交点Gと中線AL, CNの交点G'

これをふまえ、3本の中線が1点で交わることを証明しなさい。

(3) 厚さが無視できるうすい板(1 cm2あたり1 g)があり、この板から次のような五角形を切り出した。

3つの直角三角形からなる五角形ABCDE

この五角形の重心はどこにあるか求めなさい。

三角形には内心・傍心(35F)、外心・垂心(36F)とならんで重心と呼ばれるものがあり、これらは三角形の五心として知られています。

「重心」は物理で本格的に登場する概念ですが、日常生活にも役立つ大切な考え方がかくれています。この問題を通して、「重心」についての理解を深めていきましょう!

(1) 重心を見つけよう

両端に重りをとりつけた棒

(1)は重心の見つけ方を理解するための問題です。

例にあったように、重心によって系全体は重さの逆比に内分されます。今回の場合、一方の重りの中心からもう一方の重りの中心までの距離は1 + 5 + 1 = 7 cmなので、60 gの重りの中心から80 : 60 = 4 : 3に内分する点、すなわち60 gの重りの中心から4 cmのところに重心があります

重量比から重心の位置を計算する様子

重心によって系全体が重さの逆比で内分される理由は、「モーメントがつり合う」からです。

モーメントとは(力点に加える力)×(支点から力点までの距離)によって定義される物理量のことで、「物体を回転させるための力」と言いかえてもよいでしょう。

重心が支点となる時、このモーメントという物理量がつりあう(正しくは、モーメントがつりあうような支点が重心となる)ため、重心によって系全体が重さの逆比に内分されるという話につながるわけです(物理のカテゴリーで改めてくわしく解説します)。

「急にむずかしい話になったな…」と思う人もいるかも知れませんが、このモーメントをうまく使っているのが、有名なてこの原理です。

てこの原理は「加える力は小さくても、支点までの距離をかせいで大きな回転力(モーメント)を生み出す」原理であり、まさしくモーメントを使った人間の知恵です。

モーメントの応用例(くぎ抜き)

(2) ポイントは「相似」

中線AL, BMの交点Gと中線AL, CNの交点G'

(2)は証明問題です。あらかじめヒントは出しておきましたが、少し難しかったかもしれません。

方針としては、$\mathrm{G}$と$\mathrm{G’}$がどちらも線分$\mathrm{AL}$を同じように内分していることを示していきます[1]

また、今回は複数の中点が登場しているので、中点連結定理(相似)を利用することができます。

(証明)

中点$\mathrm{L}$, $\mathrm{M}$を結ぶ。

△ABCの辺BC, CAの中点L, Mを結んだ様子

すると、中点連結定理($\triangle \mathrm{CAB}$ ∽ $\triangle \mathrm{CML}$)から

$\mathrm{AB} /\!/ \mathrm{ML}$ <1>

$\mathrm{AB} : \mathrm{ML} = 2 : 1$ <2>

よって、<1>から錯角が等しく、

$\angle \mathrm{GAB} = \angle \mathrm{GLM}$ <3>

$\angle \mathrm{ABG} = \angle \mathrm{LMG}$ <4>

<3>, <4>から、$\triangle \mathrm{ABG}$と$\triangle \mathrm{LMG}$は、2つの角がそれぞれ等しいので相似である。

したがって対応する辺の比は等しく、<2>から

$\begin{align}
\mathrm{AG} : \mathrm{GL} &= \mathrm{AB} : \mathrm{LM} \\[1.5ex]
&= 2 : 1
\end{align}$

つまり、交点$\mathrm{G}$は線分$\mathrm{AL}$を2 : 1に内分する

つづいて、中点$\mathrm{L}$, $\mathrm{N}$を結ぶ。

△ABCの辺BC, ABの中点L, Nを結んだ様子

すると、中点連結定理($\triangle \mathrm{BCA}$ ∽ $\triangle \mathrm{BLN}$)より、

$\mathrm{CA} /\!/ \mathrm{LN}$ <5>

$\mathrm{CA} : \mathrm{LN} = 2 : 1$ <6>

よって、<5>から錯角が等しく、

$\angle \mathrm{G’CA} = \angle \mathrm{G’NL}$ <7>

$\angle \mathrm{CAG’} = \angle \mathrm{NLG’}$ <8>

<7>, <8>から、$\triangle \mathrm{CAG’}$と$\triangle \mathrm{NLG’}$は、2つの角がそれぞれ等しいので相似である。

したがって対応する辺の比は等しく、<6>から

$\begin{align}
\mathrm{AG’} : \mathrm{G’L} &= \mathrm{CA} : \mathrm{NL} \\[1.5ex]
&= 2 : 1
\end{align}$

つまり、交点$\mathrm{G’}$は線分$\mathrm{AL}$を2 : 1に内分する

以上より、$\mathrm{G}$, $\mathrm{G’}$はどちらも線分$\mathrm{AL}$を2 : 1に内分するので、同じ点である。

すなわち、3本の中線$\mathrm{AL}$, $\mathrm{BM}$, $\mathrm{CN}$はただ一つの点$\mathrm{G}$($\mathrm{G’}$)で交わる。

(証明終)

三角形の重心が中線上にあることは、次のように考えれば感覚的にも納得できます。

例えば、均質な板が何枚も組み合わさって三角形ができているとします。

△ABCをなす各板の重心をつないで中線ALを作る様子

この時、それぞれの板の重心はちょうど真ん中になるので、三角形全体としての重心はこれらを結んだ線($= \mathrm{AL}$)上にあると考えられます。

ただし、これでは重心を1点に決めることができません。そのため、別方向の中線($\mathrm{BM}$, $\mathrm{CN}$)も考えることで、その交点を重心として定めることができます。

(3) (1), (2)で学んだことを使おう

3つの直角三角形からなる五角形ABCDE

(3)では、(1), (2)で学んだことを使って、多角形の重心を求めていきます。

この五角形は3つの直角三角形からできているので、まずは各三角形の重心と重さを求めます。

(2)の証明からもわかるように、三角形の重心は少なくとも2本の中線があれば求まります。また、今回は「1 cm2あたり1 g」という条件があるので、面積がわかればそのまま重さもわかります。

  • 直角三角形$\mathrm{CDE}$
直角三角形CDEの重心G1

底辺が4 cm、高さが2 cmなので、面積は

$\dfrac{4 \times 2}{2} = 4$ cm2

つまり、重心$\mathrm{G_1}$に4 gの重さがかかっていると考えられます。

  • 直角三角形$\mathrm{CAE}$
直角三角形CAEの重心G2

この直角三角形は、底辺となる$\mathrm{CA}$の長さがあたえられていません。ですが、これはすぐにわかります。というのも、直角三角形$\mathrm{CDE}$と合同だからです。

すなわち、

  • $\mathrm{EC}$が共通
  • $\mathrm{AE} = \mathrm{DE} = 2$ cm

なので、直角三角形の合同条件「斜辺と他の1辺がそれぞれ等しい」をみたしています。

したがって対応する辺は等しく($\mathrm{CA} = \mathrm{CD}$)、$\mathrm{CA}$は4 cmとわかります。

ただ、合同とわかれば面積の計算はもう必要ありませんね。重さは直角三角形$\mathrm{CDE}$と同じく4 gであり、これが重心$\mathrm{G_2}$にかかっています

  • 直角三角形$\mathrm{ABC}$
直角三角形ABCの重心G3

$\mathrm{BC}$(3 cm)を底辺と見ると、高さ$\mathrm{CA}$の長さが4 cmであることは先ほど確認したので、面積は

$\dfrac{3 \times 4}{2} = 6$ cm2

つまり、重心$\mathrm{G_3}$には6 gの重さがかかっていると考えられます。

以上で各三角形についての重心と重さはわかりました。

五角形ABCDEをなす各直角三角形の重心と重さ

あとはこの3点のみに注目し、(1)で学んだことを使って図形全体の重心を決めていきます。

まず、線分$\mathrm{G_1} \mathrm{G_2}$を考えます。$\mathrm{G_1}$, $\mathrm{G_2}$には同じ4 gの重さがかかっているので、ちょうど中点(1 : 1に内分する点)が重心$\mathrm{G_4}$となります。

線分G1G2の重心G4

次に、線分$\mathrm{G_3} \mathrm{G_4}$を考えます。$\mathrm{G_3}$には6 g、$\mathrm{G_4}$には4 + 4 = 8 gの重さがかかっているので、重さの逆比、すなわち$\mathrm{G_3}$から4 : 3に内分する点が求める重心$\mathrm{G}$となります。

線分G3G4の重心G

今回の場合、$\triangle \mathrm{G_{1}G_{2}G_{3}}$の重心が求める重心とはなりません。

なぜなら、$\mathrm{G_1}$, $\mathrm{G_2}$, $\mathrm{G_3}$にかかる重さが同じではないからです。

幾何学に「重さ」という概念はないので、中線の交点で決まる三角形の重心はあくまで「その三角形が均質である」ことが前提になっています。

したがって、今回のような場合、三角形の重心の定義をそのまま使うことはできません。

おまけ(実験)

(3)で五角形$\mathrm{ABCDE}$の重心は求まりましたが、はたして本当に$\mathrm{G}$は重心なのでしょうか?

ということで、実際にこの五角形(の模型)を作り、$\mathrm{G}$の位置(赤い点)をボールペンの先で支えてみました↓

五角形ABCDE(模型)を重心Gで支えている様子

確かに倒れずに安定していますね。

物体の重心を知ることは、物を持ち上げたり支えたりといった、日常のよくある場面でも役立ちます。ぜひ普段から意識してみましょう!

参考資料

[1] チャート式 基礎からの数学Ⅰ+A 新課程 (チャート研究所 / 数研出版 2022)

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